2018年10月21日(日)は、当店の今年最後の能公演として、人間国宝・大槻文藏氏による能《葵上・あおのうえ》を上演いたします。
能《葵上》は後半、「般若」の面を使用します。
恐ろしい表情の能面として有名な般若ですが、その目元は、実は悲しみを表現しています。
タイトルは《葵上》ですが、能の主人公は、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)。『源氏物語』の登場人物・光源氏の恋人の一人です。
しかし、御息所はあまりに美しく気品があり、教養・知性・身分すべてに優れていたため、逆に光源氏は持て余すようになり、徐々に疎遠になっていきます。
一方の御息所は、光源氏にのめりこんでしまい、独占したいと渇望しながらも、年上だという引け目や自らの誇りから、素直な態度を見せることができず、自分を傷つけまいと本心を押し殺していきます。
そこに、賀茂祭(葵祭)の折に、光源氏の正妻・葵上の牛車と鉢合わせし、葵上の従者に恥辱的な仕打ちを受けてしまいます。
これが発端で御息所は生霊となって葵上を祟り始めるのでした。
その生霊の顔が「般若」の面です。嫉妬と怒り。そして、もう取り返すことのできない愛とその悲しみ。単に恐ろしい顔ではなく、そのような、ない交ぜとなった心中を表現します。
人間国宝の至芸でお楽しみください。