先日9月1日(日)、第181回有馬能楽堂定期公演として茂山宗彦氏の狂言《鬼瓦 おにがわら》と茂山千五郎氏の狂言《縄綯 なわない》が上演されました。
狂言《鬼瓦 おにがわら》茂山宗彦
《鬼瓦》の主人公は、土地を巡る裁判のため、京都に滞在している大名。
「永々在京いたすところ、訴訟思いのほかに相叶ひ、安堵の御教書を賜り、新地を過分に拝領致し、その上国元へのお暇までも下されてござる」
京都での裁判は完全勝訴。いざ国元に帰る前に、日々祈願をしていた因幡の薬師堂に御礼参りに出かけます。
主従で本尊の薬師如来を拝んだ後、せっかくなので国元にこのお堂を勧請したいと思い立った大名。お堂の様子を再現するため、隅々まで見て特徴を覚えようとします。
すると、軒先の鬼瓦の顔が、不思議と国元の妻の顔に見えてきて……恋しさのあまり、泣き出してしまうのでした。
地方の領主が訴訟のため、京都に長期滞在することの多かった当時の世相の中に、家族愛を描いた狂言です。
【出演】
大名 茂山宗彦
太郎冠者 茂山逸平
狂言《縄綯 なわない》茂山千五郎
狂言《縄綯》の主人公は、なんと博奕に負けた主人に、借金のかたにされてしまった召使い・太郎冠者です。しかし主人は、そのまま告げることができず、博奕の相手へ手紙を届けて欲しいと本当の要件を隠して、使いに出します。
「一つ、鳥目(お金)の代わりに太郎冠者を進じ候」 届けた先で手紙を読み上げられ、初めて自分が売られたことを知る太郎冠者。しかし、怒って相手の家では働きません。
仕方なく元に戻された太郎冠者は、主人の博奕好きを戒めた上で、縄を綯(な)う仕事を始めます。縄を綯いながら、後ろを支えてくれている主人に対して、行った先の家の悪口をいろいろ言い始めます。
太郎冠者が悪口に夢中になっている間に、いつの間にか主人と相手が入れ替わります。それにも気づかず、延々と悪口を続ける太郎冠者。ついに堪忍袋の緒が切れた相手に叱られてしまうのでした。
演目名でもある「縄綯」をしながらの仕方話が中心となる狂言を、京都大蔵流の名門茂山家十四世当主・茂山千五郎氏の演技でご覧いただきました。
【出演】
太郎冠者 茂山千五郎
主 茂山茂
何某 網谷正美